マーケティングの内製化|インハウス体制の作り方と外注との線引き
内製化を進めようとすると、まず「広告運用は自社でやる」「制作は外注する」といった業務単位の線引きから入りがちです。しかしこの切り方では、実務で必ず行き詰まります。同じ広告運用の中にも、自社が持つべき工程と外に出してよい工程が混在しているからです。この記事では、工程単位で線を引く考え方と、それに合わせた体制の作り方を整理します。
業務単位で線を引くと失敗する
「SEOは内製、広告は外注」という決め方は分かりやすいのですが、実態に合いません。
広告運用を例にすると、この業務は少なくとも5つの工程に分かれます。予算配分と目標設定、クリエイティブの企画、クリエイティブの制作、入稿と設定、日次の調整とレポート。
このうち予算配分は自社でしか決められません。一方、バナーの制作を自社でやる必然性は薄い。「広告運用を内製化する」と決めても、全工程を引き取る意味はないわけです。
線引きを誤ると何が起きるか
業務ごと引き取ると、本来外に出せた作業まで抱え込みます。結果として担当者の時間が作業に埋まり、判断に使う時間がなくなる。内製化したのに施策の質が上がらない、という状態です。
逆に業務ごと外に出すと、判断まで委ねることになります。代理店に「今月どこに寄せますか」と聞かれて答えられない状態は、これが原因です。
工程を3つに分類する
線を引く前に、すべての工程を次の3つに仕分けます。
判断の工程
何をやるか、いくら使うか、誰に向けるかを決める工程です。予算配分、優先順位づけ、ターゲットの定義、撤退の判断が含まれます。
この工程は例外なく自社に置きます。外に出した瞬間、事業の方向をコントロールできなくなるためです。
制作の工程
成果物を作る工程です。バナー制作、記事執筆、動画編集、LP構築などが該当します。
ここが最も判断の分かれるところです。頻度と専門性で決めます。週に何本も作るものは内製、年に数回の大型制作は外注が基本線になります。
作業の工程
手順が決まっていて、誰がやっても結果が同じになる工程です。入稿、タグ設置、データの転記、定型レポートの作成が含まれます。
外注または自動化の対象です。ここを自社の正社員が担当している状態は、内製化が目的化しているサインと考えてよいでしょう。
領域別の線引き例
3分類を実際の業務に当てはめます。
広告運用
- 内製:予算配分、訴求軸の決定、停止の判断、日次の予算調整
- 外注可:バナー制作、動画編集、入稿作業、レポートの整形
日次の予算調整を内製に入れているのは、判断だからです。数字を見て止める・寄せるという行為は、事業の理解がないとできません。
コンテンツ
- 内製:テーマ選定、構成の設計、公開の可否判断、効果の評価
- 外注可:執筆、画像作成、入稿、内部リンクの設定
構成の設計を内製に置くかどうかで、記事の質が大きく変わります。ここを外に出すと、一般論の記事しか出てこなくなります。
データ分析
- 内製:見るべき指標の決定、数字の解釈、次の打ち手の判断
- 外注可:計測環境の構築、ダッシュボードの実装、定期レポートの生成
分析は内製すべきと言われますが、正確には解釈が内製すべき部分です。環境構築は専門性が高く頻度も低いので、外に出したほうが早く済みます。
制作工程をどちらに寄せるか
3分類のうち、判断は内製、作業は外注で迷いません。実務で悩むのは制作工程です。
判断材料は3つあります。
- 頻度:週1回以上発生するなら内製の検討価値があります。月1回以下なら外注のほうが安く済みます
- 修正の回数:作ってから何度も直すものは内製向きです。往復のたびに待ち時間が発生するためです
- 事業理解の必要度:商材の細かい仕様や業界の慣習を知らないと作れないものは内製向きです
3つすべてが当てはまるなら内製、1つ以下なら外注。2つの場合は、まず外注で始めて頻度が上がったら引き取る、という順序が安全です。
線引きが決まってから体制を作る
順序が逆になっているケースをよく見ます。人を採ってから何をやらせるか考える、という進め方です。
線引きを先に済ませると、必要な人材像が具体的に決まります。
最初に必要なのは判断できる人
内製工程が判断中心になるため、最初の1人は手を動かす人ではなく決められる人です。数字を見て打ち手を選べること、外注先に的確な指示を出せることが要件になります。
制作スキルの高い人を最初に採ると、その人が作業に埋まって判断が空席になります。
外注先を管理する工数を見込む
外注に出しても工数はゼロになりません。依頼書の作成、進捗の確認、成果物のチェック、修正指示。これらは自社に残ります。
目安として、外注した作業の3割程度は管理工数として自社に発生すると見ておくと計画が崩れません。
線引きを見直すタイミング
一度決めた線引きは固定ではありません。次のような変化があれば見直します。
- 外注していた制作の依頼頻度が、月1回から週1回に増えた
- 修正の往復が3回を超えることが常態化した
- 内製している作業に、担当者の時間の半分以上が使われている
3つ目が出ているなら、内製の範囲を広げすぎています。作業工程を外に戻すか、自動化する検討が必要です。
よくある質問
Q. 何人から内製化できますか
判断工程だけなら1人でも成立します。制作と作業を外に出す前提であれば、専任1名から始められます。人数より、その1人が判断に集中できる状態を作れるかが重要です。
Q. 外注先はどう選びますか
渡す工程が作業中心なら、価格と納期で選んで問題ありません。制作を渡すなら、指示の解像度を上げても品質が安定するかを見ます。初回の発注で、あえて曖昧な部分を残して確認の質を試す方法があります。
Q. 代理店に全部任せている状態からどう始めますか
判断工程だけ先に引き取ってください。予算配分と停止の判断を自社で決め、実行は引き続き任せる形です。この状態でも、代理店への指示の質が変わるため成果に差が出ます。
Q. 内製化するとコストは下がりますか
判断工程の内製化ではほぼ変わりません。人件費が増える一方、代理店フィーは実行分しか減らないためです。コストが下がるのは制作を大量に内製した場合ですが、そのぶん採用と教育の負荷が上がります。コスト削減を主目的にすると判断を誤りやすい領域です。
線引きを機能させるために
工程を分けると、1つの施策に社内と社外の担当が混在します。誰がどこまで持っているかが見えなくなると、線引きの意味がなくなります。
Xtrategyでは、施策のスケジュールと予算・KPIを同一画面で管理できます。工程ごとの担当と進捗が同じ場所にあれば、線引きどおりに回っているかを確認できます。
まとめ
- 内製化の線引きは業務単位ではなく工程単位で引く
- 工程は判断・制作・作業の3つに分類する
- 判断は必ず内製、作業は外注か自動化が原則
- 制作は頻度・修正回数・事業理解の必要度で判断する
- 最初に必要なのは手を動かす人ではなく判断できる人
- 外注しても管理工数は3割程度残ると見込んでおく
内製化の目的は、すべてを自社で抱えることではありません。判断を自社に取り戻すことです。まずは現在委託している業務を工程に分解して、判断がどこにあるかを確かめるところから始めてみてください。