リテンション率とは?計算方法・チャーンとの違いと改善施策
与謝秀作

リテンション率は、既存顧客がどれだけサービスを使い続けてくれているかを示す指標で、事業の安定成長を測るうえで欠かせないものです。新規顧客の獲得には既存顧客の維持の何倍ものコストがかかると言われるなか、リテンション率を正しく把握し改善することは、LTVの最大化や収益基盤の安定に直結します。本記事では、リテンション率の意味と計算方法、よく混同されるチャーンレート(解約率)との違い、そして実務で取り組める改善施策までをわかりやすく解説します。
リテンション率とは
リテンション(Retention)とは「維持」「保持」を意味する英単語で、マーケティング領域では「既存顧客の維持」を指します。リテンション率とは、ある一定期間において、顧客が解約せずにサービスを使い続けてくれている割合を表す指標です。「リテンションレート」「顧客維持率」「顧客定着率」「継続率」などと呼ばれることもあります。
リテンション率が高いほど、顧客が自社のサービスに満足し、継続的に価値を感じている状態だと判断できます。逆に数値が低い、または低下傾向にある場合は、顧客がサービスから離れ始めているサインであり、原因の分析と早期の改善が求められます。
リテンション率が重要視される理由
リテンション率が経営指標として重視されるのには、明確な理由があります。
- 新規獲得よりコスト効率が高い:一般に、新規顧客の獲得には既存顧客の維持よりも数倍のコストがかかるとされます(1:5の法則)。既存顧客を維持するほうが投資効率は高くなります。
- LTV(顧客生涯価値)の最大化:顧客が長く利用を続けるほど、1人あたりが生涯にもたらす利益は大きくなります。リテンション率の向上はLTVの向上に直結します。
- 収益の安定化:とくにSaaSのようなサブスクリプション型ビジネスでは、継続利用が売上の土台です。リテンション率の高さが安定した経常収益(MRR/ARR)を支えます。
- 利益改善インパクトが大きい:離脱率が5%下がると利益が25%以上改善されるとされる「5:25の法則」のように、わずかな維持率の改善が大きな利益貢献につながります。
リテンション率の計算方法
リテンション率は、必要な数値さえそろえばシンプルな計算式で求められます。代表的な計算式は次のとおりです。
リテンション率(%) = 継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100
たとえば、新規顧客数が200人で、そのうち継続して利用している顧客が150人だった場合、リテンション率は 150 ÷ 200 × 100 = 75% となります。つまり、獲得した顧客の75%がサービスを継続している、という状態を表します。
より厳密に既存顧客の維持状況を測る場合は、新規顧客を除外した次の計算式が使われます。
リテンション率(%) = (期間終了時の総顧客数 - 期間中に増えた新規顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数 × 100
この式では、期間中に新しく増えた顧客の影響を取り除き、「もともといた顧客がどれだけ残ったか」を純粋に測れます。目的に応じて、自社にとって意味のある定義を選ぶことが大切です。
計算する際の3つのポイント
- 計測期間を決める:月次・四半期・年次など、ビジネスのサイクルに合わせて期間を設定します。解約サイクルが早いサービスほど、短い期間で計測すると変化を捉えやすくなります。
- 必要な数値をそろえる:期間開始時の顧客数、期間終了時の顧客数、期間中の新規顧客数の3つが基本データになります。
- 継続して定点観測する:単発の数値だけでなく、毎月など定期的に算出して推移を追うことで、施策の効果や異常を早期に発見できます。
リテンション率とチャーンレート(解約率)の違い
リテンション率とあわせてよく登場するのが、チャーンレート(解約率)です。両者は表裏一体の関係にあり、対義語として捉えると理解しやすくなります。リテンション率が「どれだけの顧客が継続したか」を示すのに対し、チャーンレートは「どれだけの顧客が解約したか」を示します。
チャーンレートの基本的な計算式は次のとおりです。
チャーンレート(%) = 期間中に解約した顧客数 ÷ 期間開始時の顧客数 × 100
同じ母集団を基準にした場合、リテンション率とチャーンレートを足すと100%になる関係が成り立ちます。つまり、片方が分かればもう片方も把握できます。
リテンション率(%) = 100 - チャーンレート(%)
なお、チャーンレートには「顧客数」を基準とする顧客チャーンレートのほかに、解約による収益への影響を測る収益チャーンレート(MRRベース)もあります。高単価プランの顧客が解約した場合、顧客数の減少は小さくても収益への打撃は大きくなるため、両者を併せて見ることで解約の実態をより正確に把握できます。
リテンション率を比較するときの注意点
算出したリテンション率は、単体で良し悪しを判断するのが難しい指標です。自社の過去の数値との時系列比較に加え、可能であれば業界のベンチマークと比較し、高いのか低いのかを相対的に評価しましょう。業種やビジネスモデルによって「健全な水準」は大きく異なるため、他業界の数値をそのまま当てはめないよう注意が必要です。
リテンション率が低下する主な原因
改善策を考える前に、なぜ顧客が離れていくのかを把握することが重要です。リテンション率が下がる代表的な原因には、次のようなものがあります。
- オンボーディングのつまずき:契約直後にサービスを使いこなせず、価値を実感する前に離脱してしまうケースです。
- 価値が十分に伝わっていない:機能や効果が顧客に理解されず、「使う理由」を見失ってしまう状態です。
- 操作性・UXの問題:画面が分かりにくい、操作が煩雑などUXの不備は、利用ストレスとなり解約につながります。
- サポート体制の不足:疑問やトラブルがスムーズに解消できないと、顧客満足度が低下します。
- 競合・価格要因:競合の魅力的なキャンペーンや、自社の値上げ、不具合・システム障害などの外的・内的要因も影響します。
リテンション率を改善する施策
リテンション率の改善は、「顧客に継続利用に値する価値を実感してもらう」ことが本質です。原因に応じて、次のような施策を組み合わせて取り組みます。
1. オンボーディングを最適化する
契約からサービス活用までをスムーズにつなぐオンボーディングは、初期離脱を防ぐ最重要ポイントです。チュートリアルやガイド、利用開始時のサポートを整え、顧客ができるだけ早く「成功体験(価値の実感)」にたどり着けるよう設計します。
2. 顧客との継続的なコミュニケーション
メールやアプリ内通知、活用事例の共有などを通じて、顧客がサービスの価値を再認識できる接点を継続的に提供します。利用状況に応じたパーソナライズされた案内は、エンゲージメントの維持に効果的です。
3. 解約の予兆を早期に検知する
ログイン頻度の低下や利用機能の減少など、解約につながる行動の変化を予兆サインとして捉え、リスクの高い顧客へ個別にアプローチします。解約してから対応するのではなく、兆候の段階で先回りすることが鍵です。
4. 顧客の声を収集し改善に反映する
アンケートやNPS調査などの定量データに、解約者へのインタビューなどの定性データを組み合わせ、離脱の根本原因を立体的に把握します。「価格が高い」という表面的な声の背後にある「価値が伝わっていない」といった本質的課題を突き止め、プロダクトやコミュニケーションの改善につなげます。
5. 顧客コミュニティを活用する
ユーザー同士が活用ノウハウや成功事例を共有できるコミュニティは、顧客がサービスの価値を再発見し、活用度を高める場として機能します。顧客間のつながりはサービスへの愛着(ロイヤリティ)を育み、解約率の低下に寄与します。
まとめ
リテンション率は「継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100」などで求められ、既存顧客がどれだけ定着しているかを示す指標です。チャーンレート(解約率)とは表裏一体で、「リテンション率 = 100 - チャーンレート」の関係にあります。数値を継続的に観測し、オンボーディングの最適化、継続的なコミュニケーション、解約予兆の検知、顧客の声の反映、コミュニティ活用といった施策を通じて改善を図ることで、LTVの向上と安定した収益基盤の構築につなげられます。まずは自社の現在地を正確に把握することから始めてみましょう。