リテンションレートとは?計算方法とリテンション率との違い
与謝秀作

「リテンションレートと、よく聞くリテンション率は何が違うの?」——指標を学び始めると、最初につまずきやすいのがこの疑問です。結論から言えば、両者はほぼ同じ意味で使われる言葉です。ただし、計算式や測定方法には注意すべき点がいくつもあります。本記事では、リテンションレートの意味と計算方法、リテンション率との関係、混同されやすいチャーンレートとの違い、そして向上のメリットと改善のポイントまでを実務目線で整理します。
リテンションレートとは?
リテンション(Retention)は英語で「保持」「維持」を意味する言葉です。マーケティング領域では「既存顧客の維持」を指し、自社の商品やサービスを顧客に継続的に使い続けてもらうことを表します。
リテンションレートとは、一定期間内にサービスを継続して利用している顧客の割合を数値化した指標です。日本語では「既存顧客維持率」「定着率」「継続率」などと訳され、顧客満足度の高さやサービスへの愛着を測る目安になります。数値が高いほど、顧客と良好な関係を築けており、安定的に収益を上げやすい状態だと判断できます。
とくにSaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、契約後に継続して利用してもらえるかどうかが売上を直接左右します。そのため、リテンションレートは事業の健全性を映す最重要指標のひとつとして注目されています。
リテンションレートとリテンション率の違い
まず押さえておきたいのは、「リテンションレート」と「リテンション率」は基本的に同じものを指す、という点です。レート(rate)はそもそも「率」を意味する英語であり、英語の Retention Rate を日本語に訳したものが「リテンション率」です。つまり、両者は呼び方が違うだけで、指している概念は同一だと考えて差し支えありません。
記事や媒体によって表記が揺れているのは、英語をカタカナのまま使うか、日本語に訳すかという表現の好みの違いにすぎません。文脈によっては「顧客維持率」「定着率」「継続率」といった呼び方が使われることもありますが、いずれも本質は「どれだけ顧客を維持できているか」を示す指標です。
むしろ実務で注意すべきなのは、言葉の違いよりも「どの計算式・どの期間・どの顧客の定義で測っているか」という測定方法のばらつきです。同じ「リテンションレート」という言葉でも、定義が異なれば数値の意味はまったく変わってしまいます。
リテンションレートの計算方法
リテンションレートには、目的に応じていくつかの計算式があります。代表的なのは次の2つです。
(1) 新規顧客の継続を見るシンプルな計算式
リテンションレート(%)= 継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100
たとえば、ある月に新規顧客を1,000人獲得し、1カ月後に継続して利用していた顧客が500人だった場合、「500 ÷ 1,000 × 100 = 50%」となります。アプリやWebサービスで「獲得したユーザーがどれだけ残ったか」を見るときによく使われる、直感的でわかりやすい式です。
(2) 期間内の顧客全体の維持を見る計算式
リテンションレート(%)=(期間終了時の顧客数 - 期間中に獲得した新規顧客数)÷ 期間開始時の顧客数 × 100
こちらは「もともといた顧客のうち、どれだけが残ったか」を測る式です。たとえば期間開始時に1,500人の顧客がいて、期間中に200人を新規獲得し、期間終了時に1,400人だった場合、「(1,400 - 200) ÷ 1,500 × 100 = 80%」となります。期間終了時の数から新規分を差し引くことで、純粋な「継続顧客数」を取り出しているのがポイントです。
どちらの式を使うにせよ、必ず「対象期間」を明確に定めることが欠かせません。期間を決めずに計算すると、継続顧客数が新規顧客数を上回り、リテンションレートが100%を超えるといった誤った数値が出てしまうこともあります。
計算前に決めておくべき3つの要素
リテンションレートは計算式自体はシンプルですが、前提となる定義を決めておかないと、数値が一人歩きしてしまいます。最低限、次の3つを社内で統一しておきましょう。
- 顧客の定義:無料ユーザーまで含めるのか、有料契約者のみを対象とするのか、一定回数以上利用した人を顧客とみなすのか。何を「顧客」とするかで数値は大きく変わります。
- 測定期間:日次・週次・月次のどの単位で見るか。毎日使ってほしいサービスなら短く、利用頻度が低いサービスなら長めに設定します。
- 「継続」とみなすアクション:ログインだけで継続とみなすのか、特定の機能を使ったか、課金が続いているか。どの行動を「維持している」と捉えるかを決めます。
なお測定方法には、サービス利用開始から一定期間後の特定日に利用しているかを見る「クラシックリテンション」、任意の期間内に一度でも利用したかを見る「ローリングリテンション」など複数の流派があります。自社のビジネスモデルと、その指標を「何の判断に使うか」に合わせて選ぶことが大切です。
チャーンレート(解約率)との関係
リテンションレートとあわせて理解しておきたいのが、チャーンレート(解約率・離反率)です。チャーンレートは、一定期間にどれだけの顧客が離れたかを示す指標で、リテンションレートとは表裏一体の関係にあります。
リテンションレート(%)+ チャーンレート(%)= 100%
たとえばリテンションレートが80%なら、チャーンレートは20%ということになります。リテンションレートが「どれだけ残ったか」を見る指標であるのに対し、チャーンレートは「どれだけ失ったか」を見る指標です。同じ事象を逆側から見ているため、片方を改善すればもう片方も改善します。離反の原因分析にはチャーンレートを、定着の度合いを前向きに伝えるにはリテンションレートを、と使い分けると現場で扱いやすくなります。
リテンションレートを高めるメリット
リテンションレートを高めることには、収益面でも大きな効果があります。代表的なメリットを整理しましょう。
- LTV(顧客生涯価値)の向上:継続して利用してくれる顧客が増えれば、1人あたりが生涯にもたらす利益が大きくなり、LTVが伸びます。リテンションレートとLTVは密接に連動します。
- 収益の安定化と獲得コストの抑制:一般に新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりコストがかかります。既存顧客を維持できれば、新規獲得に偏らず安定的に収益を積み上げられます。
- アップセル・クロスセルの機会増加:継続利用する顧客は満足度が高く、上位プランや関連商品の提案を受け入れてもらいやすいため、顧客単価の向上を図りやすくなります。
- 口コミ・UGCによる認知拡大:満足度の高いロイヤルカスタマーは、SNSや口コミで好意的な評判を広めてくれ、新たな顧客獲得にもつながります。
リテンションレートを改善するポイント
リテンションレートの改善は、広告のような即効性のある施策ではなく、顧客との信頼関係を地道に積み上げる取り組みです。実務で効果が出やすい打ち手を挙げます。
- オンボーディングを磨く:利用開始直後にサービスの価値を実感してもらえるかが、その後の定着を大きく左右します。最初の体験の質を高めることが最優先です。
- 顧客対応・サポートの質を上げる:問い合わせ時の対応や問題解決のスピードは満足度に直結します。タッチポイントごとの体験を見直しましょう。
- コホート分析で離反の兆候をつかむ:顧客を利用開始月などでグループ分けし、定着率を時系列で追うことで、どのタイミング・どのセグメントで離反が起きているかを特定できます。
- 先行指標を設定してPDCAを回す:最終的なリテンションレートだけでなく、「特定機能の利用率」などの中間指標を先行KPIに置くと、施策の効果を早く検証できます。
- 部門横断で取り組む:離反理由は製品・マーケティング・サポートなど複数部門にまたがります。特定部門任せにせず、組織全体の課題として向き合うことが本質的な改善につながります。
まとめ
リテンションレートとは、一定期間内にサービスを継続利用している顧客の割合を示す指標であり、「リテンション率」とは呼び方が違うだけで本質は同じものです。重要なのは言葉の違いではなく、顧客の定義・測定期間・継続とみなすアクションを統一し、一貫した基準で測ることです。チャーンレートと表裏一体の関係にあることを押さえ、LTV向上や収益の安定といったメリットを意識しながら、オンボーディングの改善やコホート分析を通じて地道にPDCAを回していきましょう。数字を測ること自体ではなく、その数字を顧客との関係を深める行動につなげることが、リテンションレート改善の出発点になります。